「雪道でスリップ事故」その恐怖を避ける方法|滑るメカニズムも解説
冷え込んだ早朝、凍った路面でスリップし路肩に突っ込んだ車を見たことはありますか?追突や玉突き事故が増えるのも、雪道ならではです。
冬の道路を走る際は、スリップ事故に十分気を付ける必要があります。
しかし、具体的にどうすれば雪道の事故を防げるのでしょうか。
この記事ではそもそも雪道が滑るメカニズムから、滑らないように運転するコツまで解説します。雪道を走る際の心がけや雪道にスタッドレスタイヤが必要な理由もまとめました。
スノーレジャーや冬のお出かけ前に知っておきたい内容ばかりです。安心して冬のレジャーを楽しむためにも、ぜひ最後までご覧ください。
目次
【注意】雪道は事故が起きやすい
公益財団法人交通事故分析センターの公表データ「都道府県別・発生月別 路面状態別 全事故件数」によると、1年間に5,000件以上の事故が冬の道路で発生しています(2021年)。
- 凍結した路面で起きた事故件数:2,972件
- 積雪した路面で起きた事故件数:2,237件
この年、全国で起きた交通事故件数は305,196件です。
交通事故件数全体から見ると凍結・積雪時の事故件数はわずかに見えるかもしれません。
しかしそもそも、
- 1年のなかで路面が凍結・積雪するのはほんの数か月
- 凍結・積雪は地域的な偏りがある(ほとんどが関東以北)
という条件を踏まえると、雪道での事故は決して他人事ではないといって良いでしょう。
「雪道は事故が起きやすい」と考え、普段より慎重に運転することが大切です。
雪道で事故が起きる原因
降雪・凍結時に自動車事故が起きやすいのは、晴天時とは異なる路面状態に原因があります。
雪道で事故が起きやすい原因を解説します。
雪道での事故は「水の膜」が引き起こしている
雪道や凍結路では、タイヤがスリップしやすくなります。スリップするとタイヤのコントロールが効かなくなるため、追突・衝突事故につながります。
実は雪道や凍結路でのスリップは、雪や氷そのものが原因ではありません。
スリップを引き起こしているのは「水の膜」です。タイヤと路面上のあいだに、雪や氷が溶けて生まれた薄い水の膜が発生し、滑りやすくしているのです。
なぜ水の膜があると滑りやすいのか?
水の膜は、物質同士の摩擦係数(滑りにくくする力)を下げるはたらきをします。
氷をテーブルの上に置いた状態をイメージしてください。
氷からやがて水が溶けだし、氷がテーブルの上をスルスルと滑っていきます。水の膜で覆われた氷は、手でつまもうとしても滑ってしまいます。
同じ現象が雪道では路面とタイヤのあいだで起きています。雪や氷から溶けだした水が摩擦係数を低下させ、スリップを発生させるのです。
タイヤを滑らせる水の膜は、0度からマイナス4度程度で発生します。水は0度で凍り始めますが、実は氷点下でも溶けだし水の膜ができるというわけです。
スタッドレスタイヤが雪道の事故防止に有効な理由
雪道といえば、スタッドレスタイヤです。スタッドレスタイヤには、わざわざ夏タイヤから履き替えるだけの「雪道に特化した」性能の違いがあります。
なぜスタッドレスタイヤは雪道でも安定した走行ができるのか、理由を解説します。
スタッドレスタイヤは「水の膜」を取り除く性能を持つ
スタッドレスタイヤは、スリップの原因となる水の膜を取り除く性能に優れています。「氷上性能」と呼ばれる性能の1つで、タイヤメーカーごとにさまざまな工夫を凝らしています。
ブリヂストンタイヤは「発泡ゴム技術」
世界シェアNo.1の座を獲得したこともある国内最大のタイヤメーカー「ブリヂストン」のスタッドレスタイヤは、発泡ゴムと呼ばれる技術で水の膜を取り除きます。
タイヤのゴムに気泡を含ませておき、気泡がスポンジのように水分を吸収し膜を除去します。
タイヤと路面の間にある水の膜をタイヤ自身が吸い込むため、水の膜がなくなりタイヤが路面をしっかりグリップできるようになります。
ダンロップは「掻き出す溝」
コスパの良いタイヤメーカーとして人気のダンロップは、溝の技術でタイヤと路面のあいだにある水や雪を掻き出します。
路面の水分は縦横に切り込まれた溝からタイヤの外に排出されます。水分を効果的に集め排出するため、積もった雪や車体の重いSUVでも安定走行を実現します。
スタッドレスタイヤは雪道でも高いグリップ力を発揮する
スタッドレスタイヤは、夏タイヤより柔らかいゴムでつくられています。ゴムが柔らかいほうが、凹凸の多い凍結路や雪道でも路面により密着しやすくなるためです。
またゴムは、気温が下がるほど硬くなる性質を持っています。そもそも硬いゴムでつくられていては、冬の道路でしなやかに走行できません。
冬に使うスタッドレスタイヤは、柔らかいゴムを使うことで気温が低い日でも路面をグリップできるようになっているのです。
もし手元に夏タイヤとスタッドレスタイヤがあれば、指で押し比べてみてください。夏タイヤは指がまったく入りこまず「硬い!」印象を受けますが、スタッドレスタイヤは弾力性が感じられるはずです。
事故なく雪道を走行するにはスタッドレスタイヤが必須
スタッドレスタイヤは、次の3つのポイントにおいて雪道に欠かせない相棒です。
- 氷上性能で水の膜を取り除く
- 独特の溝で雪を掻き出す
- 柔らかなゴムで路面をグリップ
事故なく、安全に雪道を走る第一歩は、雪道用につくられたスタッドレスタイヤを履くことです。万一に備え、雪のシーズンになる前にタイヤを交換しておきましょう。
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雪道で事故に遭わない運転テクニック
「スタッドレスタイヤを履いてさえいれば、夏と同じ感覚で運転しても大丈夫」かというと、そうではありません。雪道には、雪道に合わせた運転テクニックが必要です。
雪道で事故に遭わない・起こさないために心がけたい運転の仕方を5つ解説します。
車間距離を十分にとる
雪道や凍結路は、乾いた路面より停止距離が長くなります。
◆停止距離とは「空走距離+制動距離」
ドライバーが危険に気付きブレーキを踏み、ブレーキが実際に利き始めるまでの間に走る距離(空走距離)と、ブレーキが利き始めてから車が停止するまでの距離(制動距離)とを合わせた距離のこと。 |
一般的に圧雪路面は乾燥した路面の3~4倍の車間距離を、凍結した路面では乾燥路面の8~10倍の車間距離を取るのが望ましいとされます。
走行時速 | 停止距離 | 圧雪路面の車間距離目安 | 凍結路面の車間距離目安 |
---|---|---|---|
30km/h | 14m | 42~56m | 112~140m |
40km/h | 22m | 66~88m | 176~220m |
60km/h | 44m | 132~176m | 352~440m |
高速道路を走っていると、車間距離の目安を目にします。この距離感を参考に、十分な車間距離を保つようにしましょう。
カーブはゆっくり走行する
雪道・凍結路でもカーブはとりわけスリップが起きやすい場所です。カーブに入る際は、余裕がありすぎると感じるほどの余裕を心がけましょう。
カーブの入り口と出口、それぞれゆっくりと運転することが大切です。
- カーブに差し掛かる前に十分減速する
- カーブから出る際は徐々にアクセルを踏む
フットブレーキとエンジンブレーキを併用すると、さらに安全に減速できます。
凍結しやすい場所は細心の注意を払う
冬の道路では「凍結しやすい場所」があります。
- 橋の上
- トンネルの出入口付近
- 交差点
- 日影になった坂道
これらの場所は、そもそも雪や氷が溶けにくかったり、溶けた水が再び凍りやすかったりする場所です。
日中は問題なく走れても、早朝や夜間の冷え込みで凍る場合もあります。
路面状態に目を凝らし、慎重に運転するようにしましょう。
急ブレーキ・急発進・急加速は厳禁
雪道では「急」がつく運転は禁物です。
- 「急」ブレーキ
- 「急」発進
- 「急」加速
- 「急」ハンドル
スタッドレスタイヤは雪道でのグリップ力に優れていますが、急にブレーキをかけられては性能を発揮できません。ゆっくり走ってこそ、しっかり路面をつかんでくれます。
急がつく運転は大事故につながる恐れがあるため、雪道や凍結路では控えるようにしましょう。
「かもしれない」と考えて運転する
教習所で「“かもしれない”と危険を予測して運転しなさい」と習った記憶はありませんか?
「この先、凍っている“かもしれない”」「前の車が急停車する“かもしれない”」と起こりうる危険を想定して運転することは、雪道でも有効なテクニックです。
凍っているかもしれないと考えれば自然と減速しますし、前の車が急停車するかもしれないと思えば車間距離も確保するでしょう。
事故を未然に防ぐ運転につながり、雪道でも安全に走れるようになります。
雪道で事故に遭ってしまった!過失割合はどうなる?
交通事故が起きると、当事者同士の過失割合が問題になります。雪道の事故は雪道ならではの事情が加味される場合もあるため、よくあるケースについて理解しておきましょう。
雪道で起きやすい事故のパターンと、過失割合について解説します。
※ 実際の過失割合は、事故の状況によって変わります。
前提:追突事故の過失は「追突した側10割」が基本
雪道の事故で多いのは「追突」です。「路肩に停車していた車や立ち往生した車に後続車が追突した」といったケースが頻発します。
原則的に、追突事故での過失割合は「追突した側10割:追突された側0割」です。理由は2つあります。
後続車には前方の車の動きに注意する義務があるため
追突事故は十分な車間距離を保持していれば防げる可能性が高いため
「後方の車が前方に十分注意していれば、追突事故は基本的に回避できる」との考えに基づきます。したがって追突事故では、追突した側とされた側の過失割合は「10対0」となります。
ケース① 後続車がスリップして追突
後続車がスリップして前方の車に追突した場合、過失割合の原則に基づいて「追突した側10:追突された側0」で処理されます。
ただし前方の車が急停止したことで追突事故が起きた場合は、前方の車にも過失があったと考えられ、「追突側7~8:被追突側3~2」となります。
ケース② 玉突き事故
雪道で玉突き事故が起きた場合、基本的に「追突した車に過失がある」とされます。
例1、3台の車がA、B、Cの順で走行していた。はじめに最後尾のCがBに追突、その勢いでBがAに追突。
⇒ 最初に追突事故を起こしたCが過失10割。BとAは0割。 |
走行列なかほどの車が追突し、後続車の追突を引き起こした場合は以下のようになります。
例2、3台の車がA、B、Cの順で走行していた。中央のBがAに追突、その後CがBに追突。
⇒ 最初に追突事故を起こしたBが過失7割。次に追突したCが過失3割。Aは0割。 |
雪道事故の過失割合に影響する要素
雪道の事故では、雪道特有の事情も過失割合に影響します。代表的な影響要素を3つ見てみましょう。
天候・積雪状態
雪に視界を遮られ、道路標識が見えにくい場合は「道路標識はなかったものとして」過失割合が算定される場合があります。
路肩に積もった雪で道幅が狭くなっていた場合は、道路本来の幅ではなく積雪により狭くなった道幅が考慮されます。
走行速度、車間距離
雪道は乾いた路面より停車距離が長くなります。ドライバーはこの点に十分注意し、運転しなければなりません。
もし速度超過や車間距離を詰めすぎたことで事故を起こしてしまった場合は、通常の事故よりも多くの過失割合が加算される場合があります。
雪道対策
雪道に合った対策(スタッドレスタイヤ・タイヤチェーンなど)を装着せずに走行し事故を起こした場合、過失割合が加算される可能性があります。
またスタッドレスタイヤは溝が50%以上残っていないといけません。溝の残りが50%を下回ると「プラットフォーム」と呼ばれるマークが露出します。スタッドレスタイヤを履いていてもプラットフォームが露出していては、事故を起こしたときに過失割合が加算される恐れがあります。
スタッドレスタイヤは定期的に溝の残り具合を点検しておきましょう。
冬のお出かけは万全の雪道対策で!タイヤ専門店に相談して安心
冬のお出かけやスノーレジャーを満喫するためには、十分な雪道対策が大切です。
まず、タイヤは車に合ったスタッドレスタイヤを装着しましょう。プラットフォームが露出していないか、空気圧は十分かなど、安全に走れる状態を確認します。
さらに「大雪にはまる」「圧雪路で動けなくなる」などの危険に備え、車内に雪かきやスコップも載せておくと安心です。
雪道走行に必要な装備やタイヤ、運転テクニックは、車とタイヤを知り尽くすタイヤ専門店にご相談ください。
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まとめ
雪道や凍結路の事故は、タイヤと路面のあいだにできる水の膜が原因です。水の膜が摩擦係数を下げ、滑りやすくしているのです。
雪道でスリップ事故を起こさないためには、水の膜を効果的に排出できるタイヤが必要になります。スタッドレスタイヤは水の膜や雪を効率良く掻き出すよう作られており、雪道での安全走行を足元から支えます。
車に合ったスタッドレスタイヤを装着し、安心して冬のレジャーを楽しみましょう。スタッドレスタイヤや雪道対策のご相談は、お近くのタイヤ流通センターまでお問い合わせください。
現在、一級自動車整備士(整備士歴10年)として整備工場に勤務。専門学校卒業後、輸入車ディーラーに整備士として勤務、6年間で3社を経験。その他、「国家二級ガソリン自動車整備士」「国家二級ディーゼル自動車整備士」「アーク溶接」「低圧電気取扱者」の資格を保有。